当科では血管疾患および心臓ペースメーカーの治療を行っており、有効性の高い治療を低侵襲で確実に行うことを基本にしています。昨年の手術治療総数は247例で、大動脈疾患15例、末梢血管疾患等138例、ペースメーカー手術94例でした。
手術に伴う精神的および身体的負担、苦痛などを少しでも軽減できれば、より安心して治療が受けられ、また優れた治療効果も実感できます。当科では腹部大動脈瘤ステントグラフトや下肢動脈血行再建術治療も神経ブロックを使用した局所麻酔法で行っており、より低侵襲で安全な治療となっています。この方法は身体的負担が軽いばかりでなく術後疼痛も少なく、手術前後に安静や水分制限も不要です。高齢で基礎疾患の多い患者さんにおいても術後回復が早く、合併症や術後機能低下も少ないなど優れた利点があります。
日帰り手術も積極的に行っており、心臓ペースメーカー交換術や下肢静脈瘤治療は入院が不要なため、患者さんのみならずご家族の負担軽減にもつながっています。
心臓ペースメーカー治療
自己脈の減少により種々の心不全症状(運動時の呼吸苦や胸部不快、ふらつきや失神、下肢浮腫や臓器障害)の原因となっている洞不全症候群や高度房室ブロックなどの疾患では薬剤治療が効果的でないことが多く、永久ペースメーカー移植術の適応が考慮されます。デバイス器具の進歩により、約10年の電池寿命とMRI対応機種、遠隔モニタリングなどが可能となっています。治療は全て局所麻酔下に行っており、ペースメーカー交換術は入院の必要のない日帰り治療で行っています。合併症として一般には2~3%程度で生じうるペースメーカー感染症は、日帰り手術にもかかわらず過去20年間の約350例において生じていません。当科では近隣の医療機関からの日帰りペースメーカー交換のご依頼やペースメーカー手技内容についてのご相談やお問合せなど何でもお受けしています。
腹部大動脈瘤治療
腹部腸骨動脈瘤は自覚症状がほとんどないものの、増大により突然に破裂を来す危険性のある疾患です。動脈瘤の形状と最大径により治療適応は決まり、治療方法は全身麻酔で開腹術により動脈瘤を人工血管に置換する方法とステントグラフト内挿術とがあります。人工血管置換術は根治術で重要な分枝動脈は全て再建し約2週間の入院です。過去10年の当科の待期手術の治療成績は、75歳以上の高齢患者さんが多く種々の動脈硬化合併疾患があり、開腹術侵襲が加わりますが、動脈瘤が根治することにより同世代の人と同等の寿命が期待できるという良好な治療成績でした(日本血管外科学会にて発表)。
ステントグラフト内挿術は両側の大腿動脈から行う血管内治療で、人工血管置換術に比べて患者さんの身体的負担は軽く済みますが術後遠隔期にわたる経過観察が必要です。現在この治療は神経ブロックと局所麻酔下に行っており、アクセスルートである腸骨動脈損傷の危険性を減らし術後疼痛も少なく行えます。種々のリスクを有する患者さんも局所麻酔でより低侵襲に腹部大動脈瘤治療を行っています。人工血管置換術とステントグラフト治療の選択は、動脈の解剖学的性状や年齢、全身状態よりご本人ご家族とご相談し柔軟に行っています。
末梢動脈閉塞性疾患
歩行時に下肢に痛みを覚え休憩が必要な症状から、足部などの壊死を来す重症例まで、血流障害の程度に応じた状態が表れます。歩行障害があると大腸がんより予測寿命は短縮すると言われ、下肢切断になると生活に支障をきたし、全身状態が低下します。この疾患は成人病の一つとして近年増加傾向にあり、全身の動脈硬化疾患や基礎疾患の診断とコントロール、治療方法として運動薬剤治療、カテーテル治療、外科的血行再建術などがあります。
下肢動脈バイパス術は、一回の治療で長期間にわたる症状改善や血流増加効果が高いため救肢のためには絶大な効果があります。
下肢動脈バイパスは全て神経ブロックと低濃度局所麻酔下で行う方法により、比較的元気な患者さんでは苦痛も少ない早期回復が、高齢者や全身状態が良くない患者さんでも合併症や術後機能障害の抑制が得られています。全身状態が低下しているため手術前に心配されていたご家族が、術直後の患者さんが術前と変わらずお話される姿に、手術を受けた様に見えないと安心されることも珍しくありません。この方法は国内学会(日本心臓血管外科学会、日本血管外科学会、日本脈管学会など)や国際学会(第27回国際脈管学会(フランス)では24 best postersに選出、第17回アジア血管外科学会(シンガポール))で発表しました。
下肢静脈瘤
長年にわたり静脈不全が続いた場合、次第に下肢のむくみ、だるさとともに皮下静脈が累々と拡張し、進行すると膚色素沈着や皮膚潰瘍を生じるばかりでなく、深部静脈血栓症による肺梗塞を誘発することもある疾患です。
最近はレーザー治療を主体に治療しており、術後は注射痕程度の傷でほとんどの人は基礎的な日常生活は支障なく行えます。レーザー治療では稀に焼灼治療後の局所の腫脹や皮下出血やそれに伴う疼痛や神経障害が生じることがありますが、鎮痛剤などでの経過観察で徐々に軽快していきます。以前に主体だった高位静脈結紮術や静脈瘤抜去術などと同様にレーザー治療も神経ブロックを併用することで全身に投与する薬剤が不要で術中の効果的な鎮痛を得ています。
上記治療についてのお問合せなど、何でもお気軽に当科までご連絡ください。
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